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2つの背中

今日は午前,午後をかけて一つの地区を回った。そこで出会った老夫婦。
ご主人にはいつもお世話になっている。ご主人は太平洋戦争を生き抜いた方。
曲がったことの嫌いな方。戦後は地元で色々と活躍してこられた。85歳くらいだろうか。
その方の家にお参りさせていただこうと向かった時にちょうどご主人の運転する軽トラが
戻ってきた。助手席からは奥様がゆっくりと降りて来られた。
奥様はほとんど公の場には出てこられない。
ご主人は奥様は「認知症にかかっている」といわれる。また,腰が曲がってしまっていて,
頭は腰と同じくらいの高さになっている。奥様は一生懸命家を支えてこられたのだろう。
ご主人は奥様の方にまわると,すっと手を差し出した。奥様はご主人の手を頼りに
ゆっくりと家の方に向かって歩き始めた。自分が歩けば10秒もかからない距離を
1分くらいかけて歩いただろうか。自分はその間老夫婦に声をかけることができなかった。
声をかけるにはあまりに美しく,あまりに尊く,もったいないと思ったからだ。
50年以上連れ添ってきた歴史の重みのようなものを感じた。
ご主人は常々こんなことを語っておられた。
「わしは年老いてくたびれた女房の面倒をみにゃあいけんのです。」
その言葉通り週に数度奥様を病院に連れて行っておられる。
その背景を知っているからかもしれないが今日目の当たりにした2つの背中は
自分にたくさんのことを教えてくれた気がした。
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